心に残る狩猟シーン2 猟犬の野性を見た日
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心に残る狩猟シーン
うちの猟隊には猟犬が二頭いる。

一頭はベテランの紀州犬。白い。

もう一頭は現在1歳半の、まだ子供と言っていいほどの若い犬。
当然、猟の経験も乏しい。黒いけどこれでも紀州犬。


生後数ヶ月の頃から知っているので、かわいくて仕方がない。

性格はおとなしくて人間大好き。これで猟犬としてやっていけるのか、というぐらい。こんな感じでおちゃめな一面もある若犬。
成長を見てきているということで、なんとなくこの犬のことはわかっている、という気になっていた。
が、猟犬とはそういうものではなかった。
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昨期から導入したこの犬用GPSのおかげで、猟犬の所在がひと目で判別できるようになり、効率がよくなった。
3月11日の巻き狩りでも、この文明の利器の恩恵を受けながら発砲の機会をうかがっていた。
しかし、どうも犬の動きが妙だ。
川沿いのある地点を行ったり来たり。15分ほど同じ地点でうろうろしていたかと思うと、最後には動きがなくなった。
犬の吠え声を拾うことで状況を把握することもできるが、バッテリー消費を鑑みてその機能はオフにしてあるので、現況は犬のアイコンと所在と軌跡から推測するしかない。
一ヶ所で動かない、というのが気にかかるが…。ひょっとして、シシを川まで追い詰めたけど、反撃されて動けなくなってるんじゃないか。
過去にシシにやられた猟犬を何度か見てきているので、こうなると心配がつのる。自分の犬ではなくても、子犬の頃から世話したり遊んだりしてきた犬なのでなおさらだ。
このあたりはシシが少ないエリアだけど、気になり始めると確認せずにはいられなくなった。持ち場を離れることを無線で報告して現場へ向かうことにする。

河原では予想外の光景が繰り広げられていた。
若いシカが倒れていて、肩のあたりにくらいついているのはその猟犬。なんと、犬一頭でシカ一頭を倒しているのだった! デビュー一年目に単騎でシカしとめるとは!
(※打ち上げ時に判明しましたが、軽い半矢であった可能性があるようです。電波が届いてなかった模様)
シカは時折身じろぎしているが、立ち上がるような力はもうないようだ。止めを入れに行かなければならない。
しかし、二頭がいるのは「ここをどうやって下りたんだ」というほど切り立った段差の下。そして僕は初めての事態に冷静さを失っている。焦りが目を曇らせ、なかなかルートを見つけられない。
最終的には、対岸から、膝上ぐらいまである水深の川を渡って現着した。今思えばやるべきではなかった。割と危なかった。そして下りられるところは探せばあった。orz
犬は僕の姿を認めた時から吠えてはいたが、シカに近づくにつれて、吠え方が激しくなっていた。歯茎をむき出しにして威嚇している。こんな姿、見たことない。いつもは人なつっこくておとなしいのに。
かといってこの状況を放置することもできない。シカにはまだ息があるのだ。これ以上時間をかけて苦しめたくはない。止めを入れないと。
なんとかロープを首輪にかけてかたわらの木につなぐことに成功した。が、話はそこでは終わらなかった。
止めを入れ、さてこれをどう搬出するか。と、シカを見ながら思案している最中。つないだはずの犬がこちらへ突進してきた! なんで、どうやって!?

見ると、食い切ったのか何かに擦れたのかはわからないが、ロープが途中でちぎれていた。なんという執着心!
天晴れではあるが、これ以上獲物をボロボロにされてはたまらない。再度首輪をつかもうとすると…文字通り牙をむいた。抑えようとした右腕に咬みつかれてしまった。
振り返ってみるとどう考えても冷静ではなかったが、やられっぱなしでは下に見られる、このままではいけないと思った記憶がある。首輪をつかんで体を引き起こすと、胸に膝蹴りを入れた。
これがまともに入ってしまって「あっ、まずいやりすぎた」と一瞬素に戻ってしまうほどの手応えだったのだが、犬の動きはまったく変わらず、僕の膝蹴りはこれといって効いていなかったようだ。猟犬つよい。
それでもしばらくするととりあえずは落ち着いたのか、地面に座り込んでこちらの様子を上目遣いでちらちらうかがいながら、かたわらで倒れているシカと見比べている。自分が何かまずいことをしたのはわかってるけど、猟犬の本能として獲物も気になる。といったところか。
予備のロープがないので、犬を抑えたままだと何もできない。咬まれた右腕も少し痛む。応援を呼ぼう。
しばしの後、この犬の親方が駆けつけてくれたが、犬はここでもやらかした。親方の左手まで牙にかけたのだ。

僕の傷はこの程度で済んだが、親方はもう一人応援に来てもらわないといけないぐらいの傷になった。
今回のことで猟犬に対する理解がちょっとは深まったように思う。普段どれだけおとなしくても人なつっこくても、やはり猟犬は猟犬。獲物がらみだと目の色が変わる。それもこいつはきついと言われている紀州犬、加えて経験の浅い若犬なのだ。

「愛玩犬とは違うのだよ、愛玩犬とは!」
笑顔の下で、そんなことを考えているような気がした。
今後はもうちょっと猟犬のことを勉強して、また同じようなことがあった時には、前回より上手く対応できたら、と思う。
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Comment
お久し振りです。
猟欲があっていい若犬ですね
(^o^;)
でも、人に牙を向けるのはよろしくないですね(´・ω・`)
犬は縦社会ですから、頑張って人間が上である事教えて上げて下さい。
家の犬もロープだと噛みきってしまいます、今は被服した4ミリのワイヤー使ってます。此でダメだとチェーンしか残ってません
f(^_^;
おひさしぶりです!(・∀・)
素直でいい犬なんですけどねー。経験とスキルが足りてないのは人間も同じようです。犬の本能だけに頼って追わせてるような感じ。もっと勉強しないといけない。。。(´・ω・`)
恐ろしや!飼い主にまで牙をむくんですか?!
私は(我が家は)ネコ族なので、犬はアウトです。そんなヒトが散歩中などで偶然にも猟犬と出くわしたら。。。新聞に載るような事態に陥るのですね。
猟犬って本来、飼い主などの言うことにはしっかりと従うモノだとばかり思っていました。人間ごときに、野生の本性は抑えきれないのですね。いぬ、怖い、、、
犬というより人間の未熟さが今回の一番の原因かと。犬を使うのも難しいものです。人が来ることなどほぼない山でやってるので大丈夫だとは思いますが、万が一ってこともあるので、やはりそのへんはきっちりしておかないと。(´・ω・`)