狩猟中のマダニ対策。新成分「イカリジン」はDEETを超えるのか?
もうお盆も過ぎましたが、まだ8月半ば。夏休みまっただなか。これから先も海や山へ子供たちと出かける機会のあるお父さんお母さん方も少なくないはず。
そうなってくると気になるのはやはり虫さされ。以前に猟師である僕やハンター仲間の虫除け方法をブログにしましたが、そこで取り上げたのは「ディート(DEET)」と「ペルメトリン」という2種類の薬剤。
ペルメトリンについては日本では人間用として認可されておらず(国内では農薬登録です)、唯一ディートだけがその用途として認められた成分でした。
第二次世界大戦のジャングル戦で数々の虫に悩まされた米軍が開発したDEET。効果は確かなものがありますが、第3石油類に分類されるディートには「肌の弱い人には湿疹やかぶれなどの皮膚疾患を引き起こす可能性がある」という弱点があります。まだ体の弱い子供に使うにはちょっと二の足を踏んでしまうところ。
ペルメトリンは(日本では)農薬だからディート以上に心配、ハーブの虫除けってのもあるけどなんかマイルド過ぎて効かなさそう。子供用の虫除けには何を使えばいいんだ・・・(´・ω・`)
という親御さんたちの前にきら星のように現れたのが、ごく最近、2015年の3月に日本で初承認を受けた人間用防虫成分「イカリジン」。ディートに次ぐ第2の人間用防虫成分です!
イカリジンという防虫成分
防虫剤の老舗・フマキラーのウェブサイトには、イカリジンとそれを配合した製品「天使のスキンベープ」について、このような記載があります。
“イカリジン”は、1986年、ドイツのバイエル社がディートに代わる忌避剤として開発し、欧州、米国、オーストラリア、マレーシアなど54ヵ国以上で、すでに忌避剤として登録されている成分です(2015年1月弊社調べ)。日本国内では、2015年3月に初承認が下り、忌避剤の有効成分としてはディートに続いて2つめの承認となります。
また、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)のウェブサイトに、イカリジンを使用した防虫剤の審査結果報告書(pdf注意)がアップロードされています。
一読してもらえればわかりますが、すさまじい作業量のテストがなされたようです。効果効能はもちろん、動物に対する影響はヒトはもちろん魚からミジンコ、ミミズにいたるまでの試験結果が掲載されています。
そして報告書32ページ目、最後の項目には
3.総合評価
以上の審査を踏まえ、機構は、本剤を医薬部外品の忌避剤として、効能・効果、用法・用量を以下のように整備し、承認して差し支えないと判断する。なお、承認後、少なくとも2年間は安全性に関する製造販売後調査を実施することが適当と判断する。
[効能・効果] 蚊成虫、ブユ(ブヨ)、アブ、マダニの忌避
[用法・用量] 缶をよく振って、肌から約10cm離して、適量を肌の露出面にまんべんなくスプレーする。顔、首筋には、手のひらに一度スプレーしてから肌に塗布する。
これを見るかぎり、人体への悪影響や副作用は気にしなくて大丈夫なレベルであるようです。
効能・効果のところを見ると、我々ハンターがもっとも気になるマダニへの効果が記載されているので狩猟用途としては問題ないのですが、それ以外に効果があるのが蚊、ブユ、アブのみ。意外と対象が狭い。ディートなどは昆虫類はもちろんヒルやナメクジの一部にも有効であるとwikipediaにはあるのですが。
こちらは冒頭の画像に使用したフマキラーの「天使のスキンベープ」。デザイン的にもいかにも子供向けで優しげな感じです。イカリジン配合量も5%とややマイルド。
こちらも天使のスキンベープですが、配合されたイカリジンの量は上記製品の3倍、15%! 子供向けの優しさより効果の強力さをアピール。容量も多いし、大人用ならこっちかな。
こちらはキンチョール製品。訴求点としてディートフリーを全面に出しています。
このあたりがイカリジン配合の防虫剤。やはり小さいお子様にはディートよりこっちがよさそうですね!(・∀・)
肌の強い人であれば従来どおりディートもいいでしょう。先述のようにヒルにまで効果があるという範囲の広さは魅力。
ただし、こちらの成分はディート98%(!)となっています。ここまでくると使い方要注意なんだろうけど、商品ランクが現時点で49位! よく売れてるんだなぁ。(^^;)
国内品のディート配合量は今のところ12%が最高濃度のはず。ただ、ディート濃度を30%にまで高めようという動きがあるようなので、
こちらの34.34%のものを選べば一歩先を行く防虫効果が体験できるかも。
山歩きをする者にとっては永遠のテーマともいえる虫たちとの戦い。薬品もそうですが、服装などにも留意して虫を制しつつ、狩猟・山歩きなど大人の趣味を楽しみましょう!(・∀・)
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Comment
先日、テレビで北海道で起きたダニによる脳炎で死亡した人がいてるとニュースでやっていました。
専門家の人が来て、虫除けスプレーの事も言っていました。
ディートが必須と連呼していました。
アレルギーの少ない素材でよく効くなら、いい事なのですが、やっぱりお高くなるのでしょうね。
今まで、蚊取り線香だけを腰にぶら下げて作業していましたが、これからは気にしてスプレーを振りかけてから山仕事をしようと思います。
ディート配合の虫除けもそれほど高いことはないですよ。ただ僕の場合は肌があまり強くないので、ディートはちょっと使えそうにありません。イカリジン15%のものが市販されたらペルメトリンはやめようと考えています。
2回目の書き込みになります。
先日のマダニによる死亡者がでたニュースを見て、
今期ハンターデビューの身としては心配でしたが、
天使のスキンベープというのは初めて聞きました。
自分はこれを使ってみようと思います。
有用な情報ありがとうございました!
イカリジンの配合量は今のところ5%が上限みたいですが、近々15%まで引き上げられるようなので、時々チェックしようと思っています。
ダニは病気を媒介されなくても、強いかゆみ+すぐ破れて服が汚れる水疱で大変みたいです。さいわい僕は今のところやられたことはありませんが。
これからもやられる予定はありませんが、ハンターやってたら一度や二度はやられるんだろうなぁ。。。( ̄∇ ̄;)
和歌山の山奥で山仕事をしていた時、夏の仕事は草刈りがメインでした。
当然虫はまとわりついてきますし、スズメバチには何度となく泣かされ、腕が丸太のように腫れ上がって休んだことも数知れず…。
そんな中、草刈り作業の前には虫除けスプレーを散布してから始めるわけですが、わたしは呼吸器系の疾病があったので(気管支喘息)草自体のアレルギーと虫除けスプレーの成分を吸い込んだための呼吸器障害が出ました。
肌は首筋と顔以外は露出していませんが、それでも頭から顔、全身にかけてスプレーをすると、衣服の上についた薬成分を含めて吸い込んでしまうんですね。
(首筋にタオルを巻くのは、山仕事では危険だと言われています)
遊ぶのもいろいろと大変ですよねぇ。(-_-;)
夏場の山奥で草刈り。字面だけでもう勘弁してくれって感じです。orz
スプレーは気化させるぶん気づかないレベルでいつのまにか吸入してしまっているようですね。僕は海外では認可されていても日本では認可されていないペルメトリンを霧吹きで使っているので気をつけないと。近々イカリジンに変えようとは思っていますが。
首タオルが危険だというのは転倒してひっかけたりすると首吊りみたいになるから、ということでしょうか? (;゚Д゚)
山に入るにあたり、汗とか草、虫が嫌で首にタオルを巻くシーンは容易に考えられますね、むしろそれは似合う気もするくらいです。www
常に危険だとは思いませんが、チェンソーや刈り払い機、集材機のワイヤーに巻き付いての事故の危険性は指摘されており、講習時には必ず出てくる話です。
それを鼻で笑うのは、個人的にはどうぞお好きなようにと思いますし、全て自己責任なので構いません。
ただ、そういう教訓をないがしろにする気持ち・感覚が常日頃の行動につながってしまい、危険回避ができなくなるのです。
機械類以外でも樹木や蔓も危険要素ですから、長袖長ズボンで露出部を少なくするというのは意味があるのです。
おっしゃるような事故に遭っても、その場に誰かが常にいるとは限りませんね、それが結構盲点なのですよ。
もしタオルを巻くのなら、完全に衣服の中に隠すくらいが必要だと思います。
バイクに乗っている時に首に巻いていた長いマフラーが後輪にからまって死亡、という事故のことを聞いたことがあったので、それから連想したのですが、近いといえば近いですね。思い起こしてみれば、僕の周りで首タオルをしている人はちゃんと服の中に入れてました。(・∀・)
昨年日本で承認された新成分イカリジンの開発に携わっていた化学者で、しかもハンターという珍しい立場にいますので、少し解説を。DEETやイカリジン、ハーブ(ハッカ油など精油成分)の忌避剤の各々で、実は昆虫に対する影響が色々異なっています。イカリジンの特徴は親水性が高いと言うことで、汗をかく山歩き中にタオルなどでぬぐってもDEETに比較して効力が落ちにくいという点(DEETは親油性なので、皮膚表面から流れ落ちやすい)と、「ダニを含む虫を寄せ付けない」効果というよりも、吸血性の昆虫が動物の肌だと理解し吸血行動が起こす事を妨害する効果がイカリジンには高いのです。従って、イカリジン成分を使っても「ダニが服や皮膚に付くじゃん」という比較は実は正確な各忌避剤成分の効能を表すものではありません。また、日本では安全性を最大限重視するため、忌避剤は医薬部外品の扱いです。これは、「医薬品と比べて緩い」のでは無く、基本的に医師や薬剤師の指導監督無しで誰でも自由に使っても有害性が少ない、という点から医薬品よりもむしろ厳しい安全性評価が義務づけられており、その結果海外から20年近く遅れて国内で認可されました。狩猟者としてのフィールドテストをした結果から、有効な使い方は首や手足首など肌の露出部にイカリジン15%製品(含量が低いものでも結局たくさんかけると効果は同じです)をすりこみます。更に、ダニが上がって来るのを防ぐために、ヤブ蚊バリア等の製品に使用されているフルトリン含有殺虫剤を「靴」や服の裾にスプレーします。(肌には使用してはいけません)フルトリンは徐放性が有り、速効のダニ殺虫成分ペルメトリンより長く「忌避」効果が持続します。ピレスロイド類を衣服に使用するのに抵抗があると思いますが、欧米ではピレスロイドを配合した繊維で製造された靴や蚊帳が広く使用されています。ピレスロイドのリスクとダニやブトにやられるリスクを比較してご自身で選択されるのが賢明と思います。またDEETに比較して、イカリジンは特にマダニ類とブト(ブユ)の忌避効果に優れています。ご参考までに。
うおおお。これはすごい内容の濃い情報! ありがとうございます! m(_ _)m
pmdaのページに出ていたイカリジンの審査報告書を見て「質も量もすごい研究をしてるんだなぁ」と思っていましたが、まさか開発関係者の方から情報をいただけるとは。有効な使い方、参考にさせていただきます。今までは日本では農薬扱いのペルメトリンをもっぱら使っていて、あまり体に良くはなさそうなのでどうしようかなと思っていたところでした。
これからもハンター化学者としてのご活躍をお祈りしています。
マダニが靴や衣服に付着することの予防に関してです.
有害昆虫などの防除に関する書物に,1997年にWHOが発刊した,「Vector control Methosd for use by individuals and communities」というのがあり,その中にマダニや蚊の記載もあります.この書物はネットでも読めますが膨大かつ英語です.
衣服への付着予防は基本的にはピレスロイド系薬剤です.ペルメトリンが有名です.噴霧する液の濃度は0.5%と記載されています.農水省が見たらびっくりの超高濃度ですが,この濃度の液体を衣服に噴霧します.ただし,脱いだ衣服に噴霧するのであって着用中の衣服に噴霧するのではありません.十分に噴霧し,乾燥させた後に着用します.数回の水洗いには耐えるようです(雨にあっても大丈夫ということでしょうか?).0.5%に調整された液は,海外のアウトドア用品売り場にあるようです.
新しい薬剤として紹介されているものにシフルトリンがあります.日本では比較的入手しやすいので私はこれをペルメトリン代わりに流用しています.これは「虫コナーズあみど用」などの網戸向けに販売されているハンドスプレータイプの防虫剤の主成分です.
ペルメトリンやシフルトリンなどのいわゆるピレスロイド系殺虫剤の人への影響は小さいので私はあまり心配せず使っています.ただ,猫科は哺乳類であってもピレスロイドに弱いので注意が必要です.
僕はいままでペルメトリンを使っていましたが0.2%程度に希釈したものを服に噴霧していました。それでも濃すぎると言われていたので、0.5%はかなりのものなんでしょうね…。(´・ω・`)
ペルメトリンの猫への毒性はどこかで見たことがあります。あとは魚類や甲殻類などの水棲動物への攻撃性も高いそうで、河川への遺棄などはしないようにと注意書きにもありました。
貴重な情報ありがとうございました。テキスト量が豊富すぎたためかスパムに振り分けられていて気づくのが遅れ、申し訳ありませんでした。
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東欧、いいですね。いずれ行ってみたい地域です。メシうまいのかな。
たいていの場合、日本の薬品って弱いことが多いようなので、現地のものを使用するのがいいんじゃないかと。現地の虫には現地の薬の方がアドバンテージもあるでしょうし。問題はそれをうまく現地の言葉で伝えられるか、でしょうか。ジェスチャーと筆談(絵)でなんとかなりそうですけど。( ̄∇ ̄;)