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 最終章 引きこもり 日本へ帰る

 2・羽化

 

 いよいよ帰国の日。プラ・スメン公園で空港行きのバスを待ちながら、ここまでのことを思い返していた。
 長かったような、短かったような。僕みたいな人間がよくもまぁ何事もなく1ヶ月も旅できたもんだ。最初はこわくて恐くて後悔ばっかりだったけど、今となってはそれもいい思い出だ。来てよかった。
 そういえば、日本にいた頃は海外を一人で旅してるやつらのことなんか馬鹿にしてたっけ。
「アホかあいつら、なんでわざわざ金払ってつらい目に遭いに行くんだ」
 てな感じで。まさか自分が同じようなことをするようになるとは思ってもいなかった。でも今ならわかる。これは最高のエンターテインメントだ。
 とはいえ、していることは似ていても僕と彼らとでは性格も人間性もちがう。僕のようなネクラは彼らネアカのように人と接することはできない。旅の楽しみ方もちがうかもしれない。いや、ちがうのだろう。
 僕にとって旅とは「冒険の要素を含んだ展覧会」だった。
 街、屋台、公園、市、トレッキング。それらパビリオンを小学生のようにワクワクしながら見てまわる。冒険でもあるのでピンチになることもあるけど、屍をさらしたくない一心でなんとか切り抜ける。たまにはおなじものを見に来た見物客と一緒に行動することもある。場所がわからなかったり順路に迷ったりしたら係員に聞いたり助けてもらったりする。でも彼らと友達になろうとは思わないので必要以上には関わらない。ようするに一歩引いているのだ。
 ではネクラは旅に不向きかといえばそれは正しくない。いや、正しくないどころか、じつはヒキオタと海外の旅はかなり相性がいいのだ。
 前にも少し触れたように、ずっと日本でいた者にとって、海外の旅というものはまるで夢を見ているかのようで、そこで過ごす一日一日は、日常のことでありながら非日常のように感じられる。それゆえに、現実リアルのような虚構バーチャル、つまりゲームやネットの世界に通じるものがあり、日本でならできないような行動もすんなりと選択できてしまったりする。すなわち、虚構の世界から抜け出す最初の一歩として意外と適しているのだ。ドジなメイド型ロボットに萌え狂いながらも頭のどこかで「このままではいかん、なんとかしなければ・・・」と不安を抱きつつも、そこから抜け出す名案など思いつかず結局昨日と同じ今日を過ごしている僕のような人間にはうってつけだ。
 簡単に他人に気を許さない性格もより安全に旅ができるという点ではプラスだ。日本人だと見て近寄ってくる油断のならない輩も多いが、そういった連中にだまされる確率は社交性に富んだ人よりずっと低いはずだ。そしてたまに接した人がいい人だった時のうれしさといったら、もうなんと言っていいか、魂が嗚咽おえつするほどだ。こんな感激を味わえるのも、普段は他人から離れて過ごすネクラならではだろう。
 気弱でヘタレなハートも安全面では有利に作用する。あやしそう、でも面白そう。といった局面でも天秤は警戒心の方に傾き、なるべく早くそこから立ち去ろうとする。結果、助けられたことは何度となくあったが、人に危ない目に遭わされたことは一度としてなかった。逆に、中途半端に度胸や根性があったら、それゆえに引き際を誤ったりしたかもしれない。
 日本を出る決心をするまでのハードルは高かったが、そのフラグさえ立ってしまえばあとはほぼオートで、この環境になじむのも意外と早かった。降りかかるトラブルは、自分のなかに眠っていた、自分ですらそんなものがあるとは知らなかった能力が目をさましてなんとかしてくれた。そして旅を続けることで、今に至る25年のどこかで落としてしまった自信や希望をちょっとだけ拾い直すことができた。
 目を覆いたくなるような、というよりは白い布で顔を覆いたくなるような人生を送ってきた僕ですらこうやって旅ができ、現実リアルで生きがいが持てた。ネクラでも楽しめる、というか、ネクラならではの楽しみが旅にはあった。「差」ではなく「ちがい」なのだ、ネクラとネアカをネクラとネアカたらしめているものは。
 ・・・それにしても遅いなぁ、バス。帰りたくないけど、帰らないことには次の旅に出れない。早く来い、空港へ運べ。
 その時、遠くにバスが見えた。どうせまた渋滞で遅れていたのだろう。相変わらずだな、この国は。
 相変わらずといえば、僕は自分を変えられただろうか。旅に出る前の願いは「自分を変えたい」だった。今の自分を客観的に見てみると、その願いはかなわなかったように思える。容姿はもちろん、性格だってそのまんま。何も変わっちゃいない。人間一人を根幹から変えることなどそう簡単にはいかないものだ。しかし、たった一つだけ、以前の僕とは決定的にちがっている点があった。
 それは、今の僕は「旅の楽しさを知っている」ということだ。
 ブサイクでネクラなヒキのオタという僕の根幹からこの一ヶ月の間に生えてきた、かけがえのない枝葉。この枝葉はいずれさらに大きく繁り栄え、たとえ根幹はそのままだったとしても、僕という人間のシルエットは大きく変わっていくことだろう。

 

 渋滞、雑踏、熱気。ほこりっぽい空気。建物の配置を福笑いで決めたかのような街並み。そこに暮らす、これまたいい加減な人々。売り子がだるそうに売っている、原色のトロピカルフルーツ。バスのステップの上から振り返ったそこには、毎度おなじみとなった風景があった。何も変わっちゃいない。それもそのはず、この国に来たのはほんの一ヶ月前のことなのだ。生きて帰れないと思った。見るもの遇う人、すべてがおそろしかった。なのになぜだろう、今はなぜこんなにもこの風景がいとおしいのだろう。なごり惜しい。頭と体は帰ろうとしているのに、心だけはそこの電柱にしがみついて離れようとしてくれない。熱いものがこみ上げてくる。真っ赤に流れる僕の血潮! なんという充実感! 僕はいつのまにか、こんなにもこの国に、そして旅に惹かれている。

THAILAND  

 帰ったらすぐにバイトを探そう。働くのは久しぶりだ。でも不安はそれほど感じない。次の旅への期待の方がはるかに大きいからだ。実際、日本へ帰ったら他人とうまく話せるようになってるかと言われれば自信がない。旅ではある程度話せるようになったかとは思うが、旅先と日本では環境があまりにもちがいすぎる。でも、もうバイト先の人間関係なんかどうでもいい。うまくいくに越したことはないが、うまくやれなくても知ったことじゃない。バイト代さえくれればそれでいい。とにかく次の旅の路銀をかせぐんだ!

 

 ――生きてさえいれば、そのうちいいこともあるさ――

 

 遅かったけど、やっと来てくれた「そのうち」。望みどおりに変えることはできなかったが、僕はいつのまにか変わっていた。
 さあ、帰りたくないけど、帰ろう。次の旅はどこへ行くかな。
 引きこもりだった男を乗せ、バスはだらだらと動きだした。

 

(了)

 

 あとがき

 
0章 真人間、失格 1.旅立ち前     コメント返信(>>52まで)
1章 バンコク・クライシス 1.異国の洗礼 2.メシア現る    
2章 うれしはずかし二人旅 1.かんちがい開始 2.ネアカの街 チェンマイ 3.スコータイの仏 4.アユタヤの人
3章 お別れのち再出発 1.かんちがい終了 2.僕の深夜特急 3.変態inノンカイ 4.動物三昧ナコンラチャシマ
4章 引きこもり 日本へ帰る 1.静けさの前の嵐 2.羽化   あとがき
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