心に残る狩猟シーン1 飛ばなかった鴨
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心に残る狩猟シーン
とある土曜日のこと。
いつものようにカモの姿を求め、エブリイ(←先代猟用車)で水場を巡回していた。後部座席には愛用の空気銃、レインストームが鎮座している。
何度かの空振りを経た先の、とある池。葦原も植え込みもない、上から見るとただ長方形なだけの、殺風景な貯水池。
一見カモたちは好みそうにないように思えるが、そこそこの広さと農地のどまんなかというロケーションの良さから、常に何らかの水鳥がついていて、期待値の高い猟場になっている。
堤防から顔を出すと、すぐ近くにいた一羽のカルガモと目が合った。しまった、こんな近くにいたとは。
が、10mほどの距離ではち合わせたにも関わらず、なぜか飛ぼうとしない。泳いで去っていく。
過去に至近距離のカモが逃げないどころか近寄ってくるケースはあった。しかしあの場合は原因がはっきりしていた。今回はなぜかよくわからない。経験上、ほぼまちがいなく飛ばれるような状況なのに。
理由はわからなくともチャンスには違いない。違和感を感じながらも伏射の姿勢をとってスコープに手前側の個体を捕捉する。距離は40mほど。縦に長い長方形の短辺の行き止まりで停止してこっちを見ている。
言うまでもなく、完全にこちらに気づいている状態。一発勝負だ。これを外せば飛ばれる。
パコーン!
狙いすぎたか、撃ち下ろしが災いしたか。18グレインのペレットは無情にも首元の喫水線の数㎝横で水柱を上げた。此度は僕の負け。カルガモは大空へと飛び立っていく。
…かと思いきや。こちらを見ながら泳いで去っていくではないか。何やってんだ…?
ははん。もしかするとケガでもしているのか。弱肉強食のフィールドにおいて、万全ではないというのはそれはそれで自然の摂理。今期はまだ十分な猟果があがっていない。弱みにつけ込ませてもらおう。
パコーン!
二発目も捉えたのは水面。コッキングレバーを引いて次弾を装填する。
パコーン! パコーン!
焦りからか、三発目、四発目も連続でミスショット…。
このまま五発目を撃ってもいいが、ちょっと距離が開いてしまった。飛べない(と、この時は思っていた)んだから完全に姿を見せても大丈夫だろう。
伏せた状態から立ち上がり、姿をさらしつつ堤防を走って距離を詰める。それでも飛ばない。やはり。
距離を詰めた効果は大きい。ラストの五発目は完璧なヘッドショットとなり、ついに捕獲に成功した。
家へ戻って本処理、羽根むしりと並行して状態をつぶさに観察する。現場での下処理時に感じた違和感の正体を探るためだ。
飛ぼうとするそぶり、はばたきのひとつもしなかったので、翼のどこかに骨折でもあるのかと思っていたが、そんなものはない。腱も健在。ようするに五体満足だ。
ならなぜ飛ばなかったんだ???
明くる日曜日。疑問は解けず、首をひねりながらも出猟する。
昨日と同じ池をのぞいてみると、またしてもカルガモが一羽こちらを見ていた。
どこかで見かけたような。既視感。というにはあまりにも明確すぎる記憶。なんせまったく同じような状況を体験したのはほんの24時間ほど前のことだ。
何か胸騒ぎというか、奇妙な感覚に襲われながらも、こちらは銃を持ったハンター。やはり昨日と同じように射撃の体勢に入る。
虫の知らせは的中。そこから先は昨日とほぼ同じだった。
射ても撃っても、外してもそらしてもやはり飛ばない。しとめたのが昨日は五発目で今日は六発目、当たり所が頭か首かという点だけの違いで、それ以外の展開はトレースするかのようにほぼ同じになった。銃創以外に傷はないところまで一致している。
あまりにも気持ち悪くて、まさかここは銃禁なんじゃないかとハンターマップを確認したが、当然そうでもなく。どういうことだろうか。なんか勝ちを譲ってもらったみたいで、もやっとしたものも残る。
二羽目を処理しているうちに、ひとつ気づいたことがある。二羽ともにこれ以上ないほどやせていたのだ。
脂肪が十分についているカモの胸は皮下脂肪が皮の上から透けて、白or黄色く見える。
が、やせていて脂肪のない個体は皮の下がすぐ胸肉であることから、赤っぽく見える。
今回は二羽ともにケガなどはしていないものの、非常にやせているという点で共通していた。
野生動物は何も考えていないようで、その行動は実に理にかなっている。でたらめに走っているように見える獣道もよく観察してみると通りやすい地形をなぞっていたりするのもそうだ。
ひょっとすると今回のカモは、栄養状態がよくないことから、体力の消費を抑えるために「飛んで逃げる」より「泳いで逃げる」を選択したんじゃないか。という仮説にたどりついた。
エネルギー十分なら飛んで逃げるところだけど、人間が飛べないことは知ってるし、でも銃のことなんか知らないし、泳いで遠ざかれば十分しのげるだろう、と。
体の大きいキジも、危険回避のために、まずはしゃがんで、次に走って、それでもダメな場合に飛ぶ。飛んで逃げるのは最後の手段だ。
カモの専門家に聞いたわけではないが、なんとなくそれが正解であるような気がした。
その後、こちらに気づいているのに近くに着弾しても逃げないカモはそれ以上撃たないことにしている。
だからといってよく肥えたカモばかりが獲れるわけではないが、少なくとも、痩せているような予感を抱きながら痩せているカモを獲ってしまう、というようなことはなくなった。
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Comment
初めてコメントします。こちとら野草食いが趣味なのですが、今年はカルガモさんらが水路のクレソンを綺麗に食い尽くしてしまって、オオカワジシャしか残ってない状況。昨年この時期はクレソン、結構あったのだけど、やはり寒すぎて餌が少なかったのかもしれないと、この記事を読んで思った次第です。
はじめまして!(・∀・)
初めてクレソンを採取してきて食べた時、さっぱりした辛みと、こんなのがそのへんに雑草として生えてるんだということに驚かされた覚えがあります。
鳥は辛みを感じないとか聞いたことがあります。とすると、クレソンなんかは好餌なのかもしれませんね。
コレは私も感じておりました、反応の鈍いやつは脂肪のノリがよろしくないと
私の「美味しいやつほどすぐ逃げる」イメージはこの辺からも来ています
うまいやつ(脂乗りのいいやつ)と、まずいやつ(脂乗りの悪いやつ)を外見で識別できれば、しとめたのにガッカリするようなことがなくなるんですけどねぇ。いい方法ないかなぁ。(´・ω・`)