狩りバカ日誌 2014年1月26日
公開日:
:
最終更新日:2016/07/27
狩りバカ日誌2013
天候:小雨 気温:10℃ – 7℃ 日出 06:59 日没 17:19

プロハンターの朝は早い。
大阪府、南河内地方。閑静な住宅街の一画。ここに3階建てのぼろアパートがある。プロハンター、spinickerはここで一人暮らしをしている。
町内でも有数のプロハンター。彼らの仕事は決して世間に知らされるものではない。我々は、プロハンターの一日を追った。
朝もやの立ちこめる早朝、午前5時40分。ぼろアパート一室のドアが開き、一人の男が姿を現した。spinickerだ。
Q. おはようございます。朝、早いですね?
僕「おはようございます。そうですね、やはり出が遅いと他のハンターに先を越されてしまうのでね。僕が早朝にまわっているルートの池には、少なくとも他に1人はハンターがいるんで」
そう答える彼の表情は鋭い。先んずれば人を制す。ハンターの世界でもそれは同じということか。
彼の服装は蛍光オレンジの帽子、茶色いフリースのジャケット、迷彩のカーゴパンツ、黒のトレッキングシューズ。その他、泥よけのスパッツやボディバッグ、ナイフ等の小物を装備している。
しかし、肝心の銃が見当たらない。
Q. あれ、銃はお持ちでないのでは?
僕「ああ、これが銃です。猟場以外ではカバーをかけないとダメなんですよ」
肩からさげた緑色のナイロンカバーを外すと、大きなスコープのついた銃が現れた。狩猟用空気銃、レインストームである。高い命中精度を誇り、射撃場であれば50m先の1円玉めがけて10発撃てば8発前後は命中させられるという。
僕「安いけどよく当たるいい銃ですよ、銃声も小さいですし。ストックが折れやすい形状なのと、ちょっとダサく聞こえる時があるのが欠点といえば欠点なんですけどね、銃声が」
欠点を把握しつつも命中精度に主眼を置くという姿勢に、我々は彼のプロ魂をみた。あるいは安さに惹かれたのだろうか。彼は貧乏であることが我々の調査で判明している。
僕「ほっといてください。そろそろ出ますよ」
荷物を車に積みながら、出立をうながす。今の時間から出れば、ちょうどいい頃合いだそうだ。
Q. 頃合いとは?
僕「狩猟法で銃猟に関する規定がありましてね。発砲が許可されているのは日の出から日没までの間なんですよ」
早く着けばいいというわけでもないらしい。プロの行動には一切の無駄がない。
1時間ほど車を走らせた後、大きな池の近くで彼は車を停めた。
僕「この池から見ていきます」
いよいよ猟場に到着したらしい。我々の身も引き締まる。
奈良県U市にある、灌漑用のため池。少し離れたところで車を降り、銃を手にして池へ向かう。扉は開け放ったままだ。
Q. ドア閉めなくていいんですか?
僕「その音で獲物が警戒するんで、そのままにしておいてください」
こちらを振り向きもせず小声で答えると、足音をしのばせて土手をゆっくり上っていく。すると、数歩歩いたところで
僕「いる、います。カルかアオクビですね」
まだ水面が見える高さではない、一体どうして?
僕「声ですよ、グワッグワッて。ちょっと高い感じだったからカルかな?」
土手を上りながら、ポケットから弾倉を取り出す。空気銃とはいえ、至近距離で当たれば人の命も奪いかねない威力がある。発砲する直前まで弾をこめないのも安全のためだ。
上りきる直前、匍匐姿勢を取り、そのまま前進する。地面は朝露で濡れているが気にするそぶりはみじんもない。クルーはその場で待機するよう指示を出された。
銃を構え、微動だにしない彼。スコープのなかの獲物を追っているのか。緊張と静寂があたりを支配する。その時。
パァン!
ほぼ同時に、土手の向こう側から羽音と水音がマイクに飛び込んでくる。
Q. し、仕留めたんですか?
僕「・・・・・」
彼はスコープをのぞいたまま、射撃の姿勢を解いていない。返事もない。緊張の時間が続く。そして、10秒ほどが経過しただろうか。
僕「大丈夫そうですね。いいですよ、上がってきてください。あそこです。45mってとこですかね」
ようやく射撃姿勢を解いた彼が指さす先には、一羽の鴨があおむけに浮かんでいた。カルガモだ。声から判断した彼の見立ては正しかった。
僕「鴨のなかでもカルとアオクビは特にタフなんでね、完全に動きが止まるか、少なくとも裏返るまでは安心できないんですよ。今回はたぶん後頭部に当たったはずだから大丈夫だろうけど、いちおうね」
命中しても警戒をおこたらなかった理由をこう説明してくれた。これがプロの神髄だ。
「回収道具を取ってきます」と言い、車に戻った彼が、網を手にして戻ってきた。
Q. それは?
僕「これで獲物をすくうんですよ。鴨を回収する場合、4割ぐらいはこれを使ってますね。重宝してます」
そういいながら、どんどん柄を引き出していく。長さは8mだ。
Q. 残りの6割は?
僕「鴨キャッチャーがだいたい半分、5割ぐらいかな。残り1割は手づかみですね。陸にあがってることもありますから」
そう答えつつ、彼は器用にタモ網をあやつる。2分もしないうちに、回収に成功した。手際の良さが光る。
僕「ではちょっと処理してきます」
そういいつつ、近くの藪に入っていく。クルーも後を追った。
Q. 一体何を?
僕「ああ、ここまで撮るんですか? 下処理ですよ。羽根をむしって、ワタを抜いて」
答えながら、器用に鴨の足を木の枝にしばりつけ、逆さにつるし、羽をむしり始めた。
僕「家でやってもいいんですけどね、体温が残ってる方がよく抜けるんで。ワタ、腸とズリも早めに抜いた方が味も落ちませんしね。命を奪ったわけだから、ちょっとでもおいしく食べたいですし」
そう答える彼の目は、獲物に対する深い情愛に満ちていた。
処理を終えると、獲物の残滓を埋める。これも狩猟法で定められた処理法だ。ハンターには守るべき法律がたくさんある。
僕「じゃ、次いきましょうか」
この後、彼はさらにキジバトを仕留めた。
僕「キジバトは羽根がむしりやすくて楽なんですよ。食べてもおいしいですしね。味の個体差が少ない鳥なんです」
狩りを終え、彼のぼろアパートへ戻る途中、そう教えてくれた。
カルガモはすき焼きに、キジバトは中華風味のネギ油揚げにしたと、後日彼から連絡があった。大変に美味だったそうだ。
現在、大日本猟友会所属のハンターは約198000人。昭和50年時(約518000人)の4割にも満たず、平均年齢は上昇の一途をたどる。農林業の現場では、猪や鹿などの獣害があとを絶たない。日本の食卓は彼のようなプロハンターに未来が託されているのだ。
僕「正式なライセンスは持ってますけど、だからといってプロってわけじゃないんですけどね」
Q. えっ
僕「えっ」
~fin
【本日の結果】
発砲 5
命中 2
捕獲 カルガモ 1 キジバト 1
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