狩猟ヒヤリハット体験その4 体験と西伊豆の事故から学ぶ電気柵
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狩猟ヒヤリハット・事故

先月19日に西伊豆町で違法に設置された電気柵で2名が死亡した事故から1ヶ月あまり。その後、今月7日に設置者の男性も自殺するという痛ましい結果になりました。
事故を知った当初は「あじさいを鹿から守るために電柵? 毒のあるあじさいを鹿が食べるのか?」と、なんかモヤモヤしたものを感じていたのですが、結局、設置者の男性の言うとおりだったようです。
電気柵の施行方法は自分勝手で違法なものだったかもしれませんが、彼が自殺する前に残したという「苦しい。ごめんなさい」というコメントには、その結末とあいまってなんともやりきれないものを感じます。
実際、狩猟で猟場を回っていると、必ずと言っていいほど電気柵は見かけます。それだけ獣害が多いということでしょう。
ちなみにこれは余談ですが、電柵の高さでその地域が鹿の食害に困っているかそうでないかの目安になります。
電柵が人の腰ぐらいまでの高さしかない → 鹿なら楽々越えられる → 鹿は対象ではない
ということです。そういう場所は猪とかが獣害のメインなんでしょうね。
話がそれましたが、猟場、または猟場まで行く途中に山ほど設置されている電柵。ハンターの身である僕は知らなかったことなのですが、電柵を設置する際にはいくつか決まりごとがあるそうで、
電気事業法に基づく経済産業省令は、電気柵を設置する農家などに、〈1〉危険を知らせる表示〈2〉0・1秒以内に電気を遮断する漏電遮断器〈3〉人体に影響のない程度に電流を弱める電源装置――の取り付けを義務づけている。違反すると「30万円以下の罰金」だが、適用例はない。
読売オンラインより
となっているとのこと。ですが、罰則が実際に適用されたことはないと書かれており、有名無実になっているのが実情なようです。
こういった事態を受けて農林水産省が各地の電気柵の運用状況を調べてみたところ、
農林水産省は19日、田畑や牧場などに設置されている動物よけの電気柵について、危険を知らせる表示を設置していないなど法令違反の疑いのあるケースが全国で約7000か所見つかったとする緊急点検結果を明らかにした。
読売オンラインより
法令違反疑いの内訳は「危険表示なし」が最多で6713件、次いで「漏電遮断機の未設置」が606件、以下「適切な電源装置を設置せず」22件、その他49件となっています。
鳥獣保護法第十七条に
「垣、さくその他これに類するもので囲まれた土地又は作物のある土地において、鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をしようとする者は、あらかじめ、その土地の占有者の承諾を得なければならない。」
とあるとおり、電柵で囲まれた農地などで勝手に狩猟をすることはできませんが、それとは関係なく、鳥猟、特に空気銃でのキジ流し猟をしているような場合には電柵に近寄ることもあります。
いつだったか、僕などはクモのなかで日本で二番目におそろしいナガコガネグモに驚いてバランスを崩し、とっさにつかんだものが電柵の支柱だったこともあるぐらい。いい悪い関係なく、電柵はハンターにとっても身近なものでもあるのです。

もしあの時、つかんだのが支柱ではなく電流が流れる部分だったらどうなってたんだろうか。
まあおそらく大丈夫だっただろうとは思います。厚手のグローブをしていたし、たいていの電柵は昼間は電気流れていないはずだし、ちゃんと関連法を守っている農家さんの方が多いだろうし。
でも、もしかすると・・・ということも可能性としてはありうるわけです。
感電事故のおそろしいところが「意識はあっても自分の意志で体を動かせなくなる」という点だそうです。
米国や欧州のほとんどの家庭では交流が使用されていますが、直流より危険性が高くなります。直流に触れても筋収縮が単発的になりやすく、筋収縮が強くても電源から弾き飛ばされるだけですむ場合がよくあります。交流に触れると持続的な筋収縮を生じるため、電源を握った手が離せなくなる場合が多くなります。
感電事故の動画で被害者が電源に触れたまま立ちつくしているのを見て
「おいおい早く逃げろよ何やってんだ ( ;゚Д゚)」
と思ったことがありますが、そういうわけだったのか。脳から神経を経由して筋肉に送られる運動命令も微弱な電気信号。それをより大きな電気で阻害されて動けなくなってしまうようです。
今回の西伊豆の事故をリアルタイムで見たハンターさんは記憶に強くのこるでしょうが、今後数年、あるいはもっと後にハンターデビューしようとした人のためにこの記事が参考になれば幸いです。
・・・5年10年、その先もこのブログが続いているといいなあ。がんばろう。(´・ω・`)
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Comment
電気柵、危険な代物です。私の子供も、昼間にやられた事があります。
表示なんて、数メートル離れたら分かりません。ご指摘のように、意図的では無く触れてしまう場合も十分にあり得ます。
筋肉は、電気で動くんです。小学校の理科の実験で、カエルの脚に電気を流すと収縮するヤツ、ありませんでしたか?間違って電源を握ってしまうと電気で筋肉が収縮し、自分の意志とは関係なく握り続けてしまいますね。
どうか十分にお気を付け下さい!
大人であれば察しがつくことでも、子供にはそうでないことも多いですからね。「高電圧注意」と看板があったとしても、子供の年齢なんかによってはその「高電圧」とは何か理解できない場合だってあるはずですし。周囲の大人が気をつけてあげないといけませんね。(`・ω・´)
昨日、シシの猟場の偵察に行きましたが、今までは無かった電柵のカンバンがあちこちにぶら下がってました。白いビニ板にマジックで漢字ばかり。その少し近くの溜池の土手には「あぶない!このちかくであそんではいけません」行政はやる事はやってる様ですが、電柵も数が多く成ると、耕作意欲を失う位の出費に成る様です。補助金は全額では有りません。そして猟師の括り罠の材料費だけでも一組3千円位は掛かりますし。国立競技場は500億円でも良い?
子供向けの注意書きもいいですが、「それをするとなぜいけないのか」というところから教える必要がありますよね。ただダメ、というだけでは芯から納得できないだろうし。
狩猟税は電柵とかの補助金財源になっていると聞いているので、徴収もやむなしと考えています。競技場は海外だとそれぐらいが相場のようですね。
獣害対策に用いる一般的な電柵はバッテリー電源を昇圧しており電流量は極小、
また触れば電流が流れっぱなしになるのではなく、
パルス電流で一瞬「パチッ」とさせてビックリさせるだけのもの。
アジサイじじいお手製のAC100Vを裸電線に繋いだ代物は、世に言う電柵とは全く異なる、単なる殺人トラップ。
当時の報道でも明らかによくわかってないで通常の電柵とごっちゃにしているウソ解説は多かった。
はじめまして! (・∀・)
確かに猟場にあるような電柵はすぐそばにちょっとした祠みたいなバッテリー置き場が設置してあるところが多いですね。
例の事件では家庭用コンセントから電源をとってさらに電圧を上げていたんでしたっけ? 工作の知識はあるのにどんな結果になるかは想像できなかったんでしょうかね。(-_- )