増えすぎたシカが引き起こす問題を、神奈川県の資料から学んでみる。
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暮らしよもやま話
日本においては、狩猟をしない人がほとんど。最近、テレビなどでシカの増殖問題が時々取り上げられたりしているようですが、大方の人にとっては「ふーん?」程度のものなんでしょう。
シカをターゲットとした猟をやるハンターであれば、大量のシカが山におよぼす影響について一度や二度は考えてみたことがあるはず。
当然、僕も猟期には山へ入るので、いろいろと思うところはありますが、あらためて調べてみると神奈川県がまとめたわかりやすいpdfがみつかったので、ちょっと紹介してみたいと思います。
ニホンジカのこと、もっと知ってください 丹沢におけるニホンジカの保護管理の取り組み(神奈川県・pdf注意)
まず基本に戻って、シカとはどういう生き物であるのか。6つの特徴が挙げられています。跳躍能力が高い、とかもありますね。実際すごいです。
車を運転していた時、路上にいたシカが逃げていく際に、助走もなしに1.5mほどの崖にひとっとびで乗り上げて走って行くのを見たことがあります。話には聞いていたけど実際目の当たりにすると圧倒されるアスリートっぷりです。
しかし、やはり最大の問題は、表右下の「たいていの植物を食べる」というところでしょう。( -“-)
神奈川県の丹沢山地ではこういう問題がメインであるようです。
僕が狩りに赴いている奈良県某市・某村で目立つのは、これら5枚の画像のうちまず下段左。林床の植物はほとんどがシカに食い散らされ、残っているのはほとんどが馬酔木(あせび)という植物。これは有毒なのでシカも食べません。
なので、この環境に適応できる生き物しか生きていくことができません。したがって、生物相がとても貧弱なものになっていきます。シカが繁栄しまくる一方で、それ以外の動物は追いやられていくばかり。
シカが増える、という点だけ見ると、ハンターとしては正直ありがたいんですけどね。でもシカがもっと少なければアナグマやなんかがもっと暮らしやすくなるかもしれないと考えると…。
もうひとつが、下段中央。林床植生の劣化による裸地化や土壌流出。
ざっくり言うと、ぱっと目に入るものは「杉、馬酔木、地面。以上」という状況。でも場所によっては馬酔木すら生えていないケースもあって、そういうところは「杉、地面。以上」といった形。
東丹沢堂平地区で測定された土壌の侵食量(年間最大で表層厚さ1㎝)は、樹木のまったくないハゲ山の侵食量と同じレベルです。さらに、シカの影響による下層植生の衰退は面的に広がるため、斜面に水みちが生じ溝となり、さらに溝は谷へと拡大していきます。
このように土壌流出が加速することにより、森林生態系の基盤である土壌が失われ、水源かん養機能をはじめとした森林の公益的機能も低下してしまいます。
植物の根は土を地面につなぎとめておく役割をしてくれますが、その植物がほとんどないとなると、土壌がどんどん流失していく事態におちいります。
左はシカよけ柵内、右は柵外。このシカの食いっぷりよ!
じゃあ柵を張りめぐらせばいいじゃない! という意見もあるかと思いますが、柵の維持って大変ですよこれ。
なんせ、風倒木ガシャーン! 柵バキーン! で侵入経路がひとつでもできてしまえば、そこからどんどん入ってきます。完璧に維持できていないと効果は薄いのです。どれだけの労力が必要か。_:(´ω`」 ∠):_
これだけの問題をハンターががんばればなんとかできるか、といえば無理です。無理。ハンターの数が今の十倍になってその全員がペーパー猟師ではなくてバリバリ実働してもたぶん無理。
官民一体の取り組みはもちろん、あとは世間の風当たりも影響してくるはず。
ジビエとしての用途はそれほど伸びないでしょう。もし伸びたとしても、食肉として流通できるようにするための解体などの手間ってものすごくかかるのです。撃って仕留めて終わり、にできればどれほど楽か。
極端な話、殺して放置してもOK。といった世論、理解が生まれないと、ハンターとしては有効な駆除は難しいように思っています。
どういう形に落ち着くか先が見えない問題ではありますが、注視は続けようと思います。
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Comment
柵外と柵内との違いは、衝撃的でした!すごい食害ですね。
猟期、シカは全然獲れませんでした。イノシシは、それなりに。シカの方がイノシシより頭が良くて、警戒心が強いのでしょうか?
来期はもっと、シカ探しに集中したいところです。
あいつらの通った後はぺんぺん草なんか一本も残らないですからね。たいていの草食いやがります。
用心深さはシシの方が数段上だと思いますよ。シシは賢いなぁと思うけど、シカを賢いと思うことはあまりないですね…。シシは狡猾で知能高い、シカは天然で脊髄反射で生きてる。といったイメージです。そちらはなんとなく、単にシカが少ないんじゃないかという気がします。(´・ω・`)
助走なしで1.5mってすごいですね・・・
そんなに跳ぶのかw
鹿に限らず野生動物の身体能力には目を見張るものがありますね。
世の中には様々な問題がありますがどんなものにも正しい知識をもって向き合うことが必要だと思います。
間違った知識を持って外野からあーだこーだ言う大人にはなりたくないものですね。
そんな動きすると思ってなかったから、一瞬目がついていきませんでした。ちょっとだけかがんだかと思うと、ひょいっと。
どんなことでもそうですけど、思い込みが目を曇らせるというのは起こりうることなので、正しいと思っていることでも、たまにはうたがってかかるぐらいでいいのかもしれません。視野広くいきましょう。(´・ω・`)