怪談より怖い実話。昔話「吉作落とし」で単独猟の危険を再認識する
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狩猟ヒヤリハット・事故

テクノロジーが進んでも、先人の知恵というものには、ゴミ箱に突っ込んでふたをするのはもったいない何かが埋まっています。
そのうちのひとつが「昔話」。なかでも、幽霊も妖怪も出てこないのに屈指の怖さを誇るという「吉作落とし」というお話には、単独猟で山に入るハンターが肝に銘じておくべき教訓が含まれているのでした。
断崖に生える岩茸を採集するのが生業の吉作さん。若いけど腕のいい彼ですが、ちょっとした油断もあって、休憩のために降り立った岩棚から脱出不能になってしまいます。
わずかな水だけで数日を過ごすも次第に心身ともに追い詰められ、最後には一縷の望みをたくして岩棚から身を躍らせます。その後吉作の姿を見たものはありません。
この話を知ったのは猟師になってからのことですが、気がつけば自分の過去の行動を思い起こして変な汗が出ていました。
基本はもちろん危険なところには立ち寄らないんだけど、過去には今から思えば「あれはまずかったな」という状況におちいったことが何度かあります。その場で気づく負傷とか、車での移動中はのぞいて、です。結局無事だったんだけど、よく考えると危なかったな、ってこと。

一度は今から二年ほど前のこと。入ったことのない山を歩いていて、そんなところは渡るべきではないようなところを渡ってしまいまして。
関連記事:狩りバカ日誌 2018年2月4日(散弾銃・忍び猟)
手前の森と奥の森をつなぐ、靴の幅ぶんぐらいしかない岩場の獣道。手前から奥へわりと新しい足跡が通っていたので追ってしまいました。
わかりにくいけど左手は谷。二段構えになっていて、運がよければ7mぐらいの滑落で済むけど、もしそこの段差で止まらなければさらに20~30mの落下になります。
右手の山側から杉の根がいくつも出ていたのでそれをつかみながら行けば問題ないか、とその時は判断して進んだわけだけど、根が切れるとか、足元が崩れるとかまでは考えてませんでした。
もうひとつは一見なんの変哲もない、よくある植林帯の山を歩いていた時。
気がつくと、礫と泥が併存する、足元が非常に悪いエリアに入っていました。たいてい礫と泥はどっちかってことが多いんだけど。トラバースしつつやや上り気味に歩いている最中のことでした。
これ以上登るのはてこずりそうだ、引き返そう…と振り返って今きた道をたどろうとしたところ、なぜかやたら難易度が上がっていました。
どうやら僕は、左手が谷で右手が山であるところの方が歩きやすいみたいです。その逆はどうもギクシャクする。これは最近自覚しました。
なんてことのない状況だとどっちがどっちでも大差ないんだけど、シビアなとこに差し掛かるとその傾向が出る感じ。銃を肩にかける時は左にかけるからまあわかるんだけど、背負ったらもういっしょだと思うんだけどなあ。でもそうじゃないのです。(´・ω・`)
なので、引き返そうとすると山側と谷側が逆になって、もとから足場の悪いところがさらに難易度が上がってしまった。くわえて、上りと下りでは、下りの方が難しい。
結局この時は、慎重に慎重に動いて、脱出に20分か30分ほどかかったと思います。一見すると何もなさそうなところだったのに。
そういうこともあるのかと頭に入れて、最近は行動するようにしています。
あとはこの話でもそうだけど、休憩に入る時とか、緊張の糸が切れて弛緩する瞬間などはヒヤリハットも顔をのぞかせやすいようです。獲物をしとめてほっとして脱砲を忘れてた、なんてよく聞く話もここに含まれるかと。吉作氏もそうだったのでしょう。
こういう話とか過去の自分の行動などを見てみると、僕の場合は「退くべきところで退く判断が遅い」という傾向があるようで。獲物の痕跡追ってる時は特に。もうちょっと、あとちょっとだけ…。となりやすいんですよねえ。夢中で米粒拾ってるうちに罠にかかるスズメと変わらん。(´・ω・`)
三つ子の魂百までってことわざもあるぐらいだし人の性根ってのはそう簡単には変わらないんだろうけど、それでもこの先人の知恵を忘れずに、これからも歩いていく所存です。
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